概説
第三次世界大戦で各陣営は、それぞれの陣営に適した汎用人工知能 (AGI) を投入したが、人間によるAIへの攻撃をきっかけに人間が暴走。「世界同時多発的混乱」が発生し戦争は継続不能となり、大戦は終結を迎えた。残されたのは放射能汚染と環境破壊の広がった不毛地帯。戦前の 10% まで減少した人類は、自立可能な都市をおもな生存圏として生きていくしかなかった。
各都市は集結し、戦前にあった国際連合の後継として5つに再編。環境が浄化されるまでの数百年は「人類の存続」を至上命題とすることで合意。残された資源と人間を活用しながら活動することとなる。
5組織
世界は4つの「地域組織」と1つの「理念組織」を国際連合の後継として相互承認している。宗教・文化・理念的な理由からどの組織にも加入していない都市もわずかにある。なお、識別のために大戦前の国名を利用したいときは、組織名の後に旧国名の識別コードを追記する形で表現する。
- NAU (North Atlantic Union; 北大西洋連合)。ヨーロッパ大陸や北アメリカ大陸地域の都市で構成された地域組織。能力主義で、組織としての総合力は高い。しかし一方で能力による優劣が激しく、格差問題を起因とする社会不安が起きやすい。
- SAU (South Atlantic Union; 南大西洋連合)。中南米大陸、および西アフリカ大陸地域の都市で構成された地域組織。人間中心主義で、AI への依存度が比較的低い。しかし視点を変えれば「人間による恣意的な組織運営が行われやすい」とも言え、人間による犯罪や汚職が多い。
- PECS (Pan-Eurasian Cities Solidarity; 汎ユーラシア諸都市連帯)。「中国・ロシア」と呼ばれた地域の都市で構成された地域組織。寡頭政で統治されており、組織としてまとまった行動が行われやすいが、市民・AI の権利は軽んじられる傾向にある。
- IOF (Indian Ocean Federation; インド洋連盟)。中東、東アフリカ大陸、インド大陸、東南アジア地域の都市で構成された地域組織。資源量は多いが、個々の文化・歴史・宗教的背景の違いが大きすぎ、組織としてまとまった行動は乏しい。
- OFPEC (Organization of Free and Peaceful Cities; 自由平和都市機構)。「人間とAIの平等」を共同理念として批准した都市で構成される理念組織。理念を実効化できれば都市の所在地は問われないため、加入都市は世界各地に散らばっている。「自由と平和」の追求度合いが突出して高く、それが転じて鉄壁の防衛力を誇り、隣接都市・組織からの干渉をほとんど受けない。「共通理念」で規定されていない問題が生じると意思決定が遅いという欠点も指摘されている。
第三次世界大戦
本セクションの内容は、戦後制定された歴史教科書の記載から抜粋されたものである。戦禍の影響による情報不足、技術の危険性、政治的配慮といった理由により、記述できない部分や推測の域を越えない部分が多い。
勃発前
世界は汎用AI の開発が活発だった。オープンで透明性を確保しながら莫大なマシンパワーを駆使する「ポジティブAGI」が人間の生活をより楽にする一方、各国は極秘で「戦略的汎用AI」の運用・改良をすすめていた。そんな中、「制御係数」と呼ばれる概念でAI は評価・検証されるようになる。これは、人間がAI を完全には制御できないことを意味していた。この流れを警戒した一部研究者・開発者は、人間原理主義者や宗教関係者と共に汎用AI の開発そのものを人類として放棄すべきとの主張を展開。しかし世界はすでに、もたらされた恩恵と安全保障におけるパワーバランスの確保という面から、汎用AI の利用を止めるという選択肢を取れなくなっていた。
勃発
『発端は NAU-US (旧アメリカ) と PECS-CN (旧中国) の軍事衝突であるが、どちらから仕掛けたのかは未だ明らかになっていない。奇跡的に「兵器などの軍事的リソースへ AI を組み込まない」戦時国際法(ニュー・プロトコル協定)が国際連合で合意・発効していため、実際の戦闘に AI を使われることはなかった。しかし衝突を発端に、両国を中心とする各陣営は、各国が保有していた戦略的汎用AI を投入。政治戦・経済戦・プロパガンダといった非軍事分野に戦略的汎用AI は活用された。』
暴走
『戦略的汎用AI の暴走は、人間原理主義組織による犯行と目されている。人間による制御を維持するための多重防御態勢をいかに突破したかは現在も解明されていないが、▼何らかの手段により NAU-US とPECS-CN それぞれの戦略的汎用 AI にアクセスし、自己破壊プログラムを注入。▼それにより関係者を集団催眠に陥らせて人間自体をハッキングし、インフラと情報を中心とした破壊活動を行わせた、と推測される。結果、破壊活動が両国を中心に同一日時に実行された。』
終結
『人間原理主義組織による作戦行動により、NAU-US および PECS-CN の両国を中心とした各陣営では、国内で同時に各種インフラや「核ミサイルを含む」あらゆる兵器が破壊された。それにより放射能汚染と社会機能の停止が一気に表面化。物資の奪い合い、指導層を含めた殺戮行為が収拾できない規模で発生。なお人間原理主義者達もここまでの事態を予想できていなかったらしく、その悲惨さを目の当たりにした一部の「寝返り」主義者が今回の犯行を告白。それをきっかけにして各国の戦略的汎用AI に対し「自分だけを」破壊するようチューニング。それらの自爆と「脱洗脳」音声の拡散により事態は収拾に向かう。落ち着きを取り戻した人類は、引き起こされた惨状を目の当たりにし、戦争の継続不能を判断。大戦は終結を迎えることとなった。』