「。。。正直、イヤな予感しかしないんだけど。」
本部ビルを目にして、面倒なことに巻き込まれることしか予想できない。あぁ、業務命令とはいえまたココに来ることになるなんて。。。
「そーですか? わたし、久々に会えるから楽しみですー。」
「俺も、みんなと話しできるの楽しいから嫌いじゃないよ。」
。。。まぁ、こいつらが良ければいいか。俺ひとりゴネてもしょうがないだろうし。昨今の情勢とまったく関係ない話、かも、しれないしね。。。
という期待は見事に裏切られた。ちぇっ、ソンした。。。
「まず、スイスに飛んでね♡」 3柱の一人、サクラに告げられる。
「ちょい待ち。まず、ってなんだよ。他もあるってこと?」
「おや、シンにしては察しがいいね。次はウェリントン、最後はブエノスアイレスだよ。」 ヤマトが続ける。
「どんだけ移動させるんだよ。みんなバラバラじゃねぇか。」
「大丈夫、これで全部だよ。」 アマテラスが返す。なんでみんなそんなフランクなんだよ。長としての威厳はないのかよ。
「なにを仰る。私たちとシンの仲じゃないですか。」
「で、なんでそんな世界旅行をご用意したんですかねぇ?」
傍でキャッキャと喜んでるリンとマナを置いて、俺は尋ねる。
「これを使えるようにして配ってほしいんです。」
サクラが見せたのは、かつて俺が「遺構」 から回収した機械の欠片だった。なんとまぁ、ヤバい見た目だこと。ひさびさに見たけど、禍々しさしか感じられないな。
「では今回の「旅行」をご説明する前に。リンさん、私のお話相手になってくれる?マナ君はアマテラスの。じゃあヤマト、シンに説明よろしく♡」
。。。相変わらずかかあ天下だな、ここ。まぁいいけど。
「さて、では今回の内容を説明するよ。」
3組がそれぞれ離れたところで交流を始める。リンは楽しそうだが、時折真面目な顔になってサクラの話を聞いている。アマテラスはマナとケーブル接続までしている。
「まず事前情報として。シンは昨今の情勢を理解している?」
「まぁ少々。ここ3日は出勤予定をリモートワークにしてもらっていたから、又聞きだけど、上司から情報は入ってるよ。」
「じゃあ PECS の動き、どう思ってる?」
「どうって言われても。。。クーデターかな。AI による人間への反乱。人間から AI を奪って、AI優位の世界にしようとしてるんじゃない?」
「大筋で私たちの見解とおなじだね。で、ここからが本題なんだけど。」
「人間とAI の力関係は3つに分けられる。人間優位か、AI優位か、同等か。シンはどれが良いと思ってる? 難しいこと抜きに、君の肌感覚で答えてほしい。」
「そりゃあ『同等』でしょ。それぞれ足りない所はあるけど、それを互いに補えばいいじゃんって。上下を決めようとすれば結局、いざこざの原因になるでしょ。」
「。。。ありがとう。やっぱり君を選んだのは正解だったと思うよ。」
「そりゃあどうも。あと難しい話は巻き込まれないのが一番だと思ってるかな。」
「はは。そう邪険にするなよ。古くからの付き合いじゃないか。」
とたん、ヤマトの顔が引き締まる。
「私たち OFPEC は、PECS の動きを「人類の存続」という点から受け入れがたいと判断した。かといって、表立っての活動は加入都市のみんなに被害をおよぼしかねない。そこで隠密行動だ。君に『引き金』を配って欲しい。そこまで。『引く』ことじゃない。」
「。。。だれに配るんだ?」
「ピアレンツ(Parents)。私たちはそう呼んでる。AI孤児たちの保護者みたいなもんだ。」
「その「ピアレンツ」 に、あの禍々しいのを渡すってことです?」
「いや。あれから クリスタル(結晶) を生成してほしい。それが「引き金」 となる。」
「。。。どういうこと? 俺はあれを拾っただけですよ。中身がなんなのか、これっぽちも知らない。というか、調べる前にあんた方が持って行っちまったじゃないですか。」
「それを説明させてくれ。」
ヤマトの話す内容は面倒極まりないものだった。彼いわく、あれは大戦時に破壊された汎用AIの欠片だそうで。機能の大半は、OFPEC の総力をもってしても復元できなかったらしい。
「でもね。未接続の「シナプス」にクリスタルかぶさっていたんだ。まるでフィルターのようにね。で、クリスタルを通過するあらゆる情報は、クリスタルに規定されたアルゴリズムに沿うよう改変され、AI の挙動を変えられることもわかった。」
「。。。それ、大昔に予想された『信念(Belief)』 のインストールが可能になるというやつです?」
「やっぱり博識だね。その通り。話が早くて助かるよ。」
「助かるよ、じゃないよ!いまじゃ禁忌扱いのそれを、なんで俺なんかに?!」
「君だからだよ。チェンジャーからスカベンジャーまで一手に担える君の能力に期待しているし。一緒に生活してるリン君達との関係性から、キミが間違えることはないと思っているし。半分は。」
「もう半分は?!」
「あんなヤバイもの拾ってきた張本人として責任取ってよね!ってやつ。サクラ風にいうのなら。」
「やっぱそこか。。。」
「冗談はさておき。君の能力とAI達との信頼関係は随一だ。わたしたち OFPEC の至宝だと思ってる。そんな隠し玉のような君だからこそ、いまの盤面をひっくり返す鉄砲玉。。。いや、一手が取れると判断したんだ。」
「なんかだんだん扱いひどくなってません?!」
「そう言うなって。うまくいったら君の望みを何でも一つ叶えるよ。お金がいい?それともあんなことやそんなこと。。。?」
「いやその先は。。。」
気づくと、ヤマトの後ろにサクラとリンが立っていた。サクラ、にこやかな顔してそんな目をするなんて、芸が細かいぞ。リンもなに顔を赤くしてるんだ?
「さぁて、ヤマトも話を終えたみたいですしねぇ。シンもほかに聞きたいことあるかしら?」
「い、いえ。。。謹んでお引き受けいたします。。。」
「ありがと♡ じゃあ詳細はリン達に聞いてね。」
。。。サクラと耳を引っ張られて引きずられていくヤマトを見送った後、俺たちはマナを回収して本部ビルを後にした。
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出発は翌日の夜にした。トリパーパス(陸・海・空移動用機)ふくめた必要物資はOFPEC 側で用意してくれるらしい。段取りを計画したあと、俺は夕食後にみんなへ声をかけた。
「リン、カーマ、マナ。話をしたい。リン、D2 の支度を頼めるか?」
みんな一瞬きょとんとするが、すぐにまじめな顔をして用意を始める。テーブルには専用スレートを敷き、アクセスを確認する。俺も専用ヘルメットをかぶり、深呼吸を3回して、心を落ち着ける。
「みんな、話の場を設けてくれてありがとう。今回の本部からのミッションについて俺の言いたい事を伝える。時間が無いから、質問は必須な1問に絞ってほしい。」
「わかったわ。」「承知しました。」「りょーかい。」
「ありがとう。今回のミッションは2つ。まず、AI に信念(Belief) を発現させるためのクリスタルを遺物から生成すること。つぎに、それを OFPEC 3都市にいる「ピアレンツ」 に配ること。」
「うん、そうだね。」「間違いないかと。」「僕も。」
「リンにはミッション全般の管理を頼む。カーマはリンの指示を俺からの指示として実行してほしい。マナはミッション全般を通して、リンと連携してくれ。」
「わかった。」「承知しました。」「りょーかい。」
「マナ。アマテラスと話をしていたようだけど、遺物の解析結果も聞いてると思う。クリスタル生成はできそうか?」
「いま演算中。出発までには目途をつけるよ。」
「さすが!じゃあリン、マネと連携して生成に必要な物資の準備を。トリパーパス機内で作業をするつもりだ。」
「まかせて!」
「あと心配しているのは、お前たちへの攻撃だ。PECS がいつ「洗脳」 を使ってくるかわからん。汚染経路を無くすのに、ジャマー、コーヒー、バッテリーの準備を十分に。このあたりはカーマが詳しいはずだけど。」
「お任せください。」
「みんなありがとう。最後に。この会話が終わったら、俺は一晩行動不能になる。その間はリンに管理者を代行してもらう。各自休息を取りながら、汚染に十分注意して行動してほしい。俺は、みんながいてくれるから俺でいられる。みんなそろってミッションを終えよう。そしてまた平穏な生活に戻るんだ!」
「そうだね!」「わたくしも同じ思いです。」「最後は自分の願望じゃん( ´∀` )」
「じゃあこれでD2終了。状況を開始する。」
俺が気づいたのは翌朝だった。ベットから身を起こすと、リンから準備完了の報告を受けた。毎度頑張りすぎだよ。。俺は出発まで休息するよう伝え、みんなが休んだのを見届けてから、出発まで準備内容の確認を進めた。